人気ブログランキング | 話題のタグを見る

●ロックな『欲望という名の電車』

友達に劇を誘われた。
懸賞でチケットが当たったと言う。
『欲望と言う名の電車』は昔に見たことがあるが、暗い話だったことだけしか覚えていなかった。

「ネットで配役を見て」と友達がいうので調べてみた。
池内博之、鈴木砂羽、猫背椿は知っていた。
松尾スズキ演出が面白そうだ。「行きたい」とOKした。
●ロックな『欲望という名の電車』_f0234728_12374331.jpg

名古屋公演は一日だけだ。演劇鑑賞なんて何年振りだろう。ドキドキしながら席に着く。
正味3時間の公演時間が5時間くらいに感じた。つまらなかったのではない。あまりに濃い内容だったからだ。観客は咳ひとつしない。皆、息を詰めて舞台を見つめている。ホールの空気はピンと張りつめていた。見終わった後、グッタリ疲れた。

映像と音楽を用いる演出が斬新だった。
所々に挿入された笑いを誘う台詞と珍妙な動作が、重苦しい話を少し軽くさせていた。
R15の生々しい台詞と演技。はて、こんなのあったっけ?と思ったが、これが松尾スズキ流なのだろうか。

自分を飾る嘘でギリギリ精神のバランスを保つ姉。
姉と夫への挾間で苦しむ妹。
DVと優しさを繰り返す夫。

心の奥底をのぞいてみれば『欲望という名の電車』の描く世界は無縁ではない。だからこそ世界中で上演される、演劇の金字塔なのだろう。彼らの台詞にうなずく私は、10数年前に見た時の自分ではなかった。

幸か不幸か、ヒロインが危ういバランスの崩れた後のストリーは全く覚えていなかった。
どう決着をつけるのか固唾をのんで見守った。
衝撃の最後にロックが流れた。ロックな『欲望という名の電車』だった。
これをアメリカに逆輸出したらアメリカ人はどう見るだろうか。感想を聞いてみたい。

そういえば『ガラスの動物園』もテネシーウィリアムズ作だ。数年前、南果歩、村田雄浩、香川照之の配役で劇を見た後、不消化な思いで頭を抱えたことをずるずると思い出した。
二つの作品にドグロのように渦巻く負のエネルギーはどこからくるのか。
作家の壮絶な人生の投影だろうか。

ブランチ役の秋山奈津子は他を圧倒する存在感を放っていた。遠目から見る彼女は美しく、脆くエキセントリックな激情の人ブランチそのものだった。
YouTubeのインタビューで見た素顔とは全く別人だ。よく通る声にひきこまれる演技。
彼女は舞台女優の中の舞台女優だった。
by feliza0930 | 2011-05-11 12:42 | ・DRAMA