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●熊木杏里

「やっと会えたね」。
中山美穂に初めて会った時、辻仁成が言った陳腐な(失礼!)口説き文句だ。
辻とは全然関係ないけど、23日、私も熊木杏里に「やっと会えたね」。
気がついたら終わっていたり、他の用と重なっていたりとニアミス続きの熊木のコンサートだったからだ。

4時過ぎ。ボトムライン前にはファンが並び始めている。想像以上に男性ファンが多いことにたじろぐ。女子を見つけ整理番号が近いことにホッとして彼女の前に並ぶ。クリスマス寒波襲来で寒さで震える。指先がかじかむ。
友達が来るのを待つ間、そのメガネ女子に話しかける。「熊木は初めて?」「いいえ、結構、前からのファンなんですよ。」「男性が多いよね?低い声で『ギャー』って言うの?」「昔はもっと多かったんですよ。みんな静かに聞く人ばかり。最近は女子も増えてきたのでうれしい」「MCはおもしろい?」「間(マ)がいいんですよね。味があって。」「・・・」こんなに男性ファンが多いコンサートは初めてなので興味津々でついインタビュー口調になる(笑)

4時半。開場となった。席を確保してホール内のトイレに行く。男子トイレが(!!)長蛇の列だ。今まで行ったコンサートで見たことがない光景で軽くショックを受ける。
ライブが始まった。
真っ白なダブダブTシャツが熊木の細い体を一層、際だたせる。長い茶色のプリーツスカートが揺れる。茶色に染めた、おだんごヘア。長い手足の動きがちょっと漫画チック(?)。
『Hello、GoodBye&Hello』。高音でいきなり声が裏がえる。曲が終わって咳をする。ヤバイ。今日は喉の調子が悪そうだ。こんな調子で2時間もつだろうか。心配になってくる。MCも元気がない。CDで充分だったかも・・・という思いがかすめる。
たまに「かわいい!」と低い声が飛ぶが、客席は静かだ。隣の男性も前の男性もこっくり、こっくり船をこぎはじめた。他の人はと見ると直立不動だったり、じっと熊木のライブを見守っている。

だが、ここで熊木は終わらない。『戦いの矛盾』あたりから次第に声が出るようになる。『新しい私になって』のような名曲は熊木の声域にあっているのか無理がない。俄然、声が伸びてくる。
私は、熊木杏里は「ライブアーティスト」と見た。
客席の力でだんだん声が出てきて力を発揮するタイプ。
声が出てくると自然、MCもなめらかになってくる。『Hello』で声が出なかった失敗を土下座パフォーマンスして笑いをとる。熊木はああ見えてなかなかだ。
「周りに受けいれられず苦しんでいた時に作った」「旭山動物園のテーマ曲は動物や“生命”に感動して作った曲」。武田鉄矢の事務所時代の話もする。だから『私をたどる物語』が金八先生の主題歌だったのだと謎が解ける。
ファン歴がまだ浅い私はどれもこれも初めて聞く話ばかりだ。
クリスマスだからと特別に歌った『星に願いを』。最初の『Hello』と同じ人が歌っているとは思えない。高音域こそ少しかすれるが、熊木の透明な声とぴったりマッチしていた。
後半はアップテンポな曲で元気な熊木を演出する。観客はスタンディングで手拍子だ。
●熊木杏里_f0234728_10405687.jpg
<10年前の名古屋駅>

熊木はデビュー10年。「10年前には出なかった音も出て、10年前には出なかった汗も出た」
熊木が語ると、ふつうの言葉も瞬く間に詩に変わる。
熊木の歌詞はメロディーから離れ飛び立つ。
 
ところで会場の大半を占める男性観客は熊木に何を求めているのだろうか。見たところ20歳代から40歳くらい。ほとんどが一人か男同士できているようだ。
熊木はピュアで華奢で守ってあげたくなる疑似恋人?
クリスマスイブイブの夜、観客に投げかける。「熊木、30になりました。30歳でいいですか?」。これってどう解釈したらいいのかな。
熊木の曲は素晴らしい。詩も素晴らしい。言葉のセンスも卓越している。『殺風景』『りっしんべん』などというタイトルは熊木以外に誰が思い浮かぶというのだろうか。
熊木の歌には聞くたびに新鮮な驚きがある。
ホームグランド』は震災後に生きる私たちに勇気を与える。

「来年もきっと来てくださいね」熊木は言う。
でも・・・・私は来年はないかな・・・
by feliza0930 | 2011-12-24 10:51 | ・MUSIC